「ふどうさんや」この言葉、なぜに人に悪く思われているのだろうか。バブルの時のイメージであろうか。「屋」が付かなくなれば響きも良くなるであろうに。
　先日、大学生の就職に対する意識調査の資料を見たところ、文系学生･理系学生共に就職希望が非常に低い業種があった。証券と不動産である。中でも不動産は双方で最下位であった。これは不況のせいだけではあるまい。
　私は、小さい頃から「科学者」特に天文学者になる事が夢で、今もその希望は なれるなれんは別にして変わっていない。幼稚園の頃から 科学誌「ニュートン」をよく見、将来の希望は？と聞かれると、「ＮＡＳＡで働く人」とか「天文学者」とか言っていたガキがである。全く希望していなかった不動産屋。
　しかしこれがなかなかにして面白い仕事なのである。

２, 夢を売る仕事

　左の写真を見てほしい。これが私が売っていたマンションである。
　分譲マンションの販売営業というのは、こういったマンションのモデルルーム･現地などを案内し、図面集や価格表、その他資料を用いて商談をするという仕事である。
　もちろんお客さんの家にも何度も訪問する。西は赤穂、東は京都へと。購入者であるならばローンの申込みなどの雑件をするために行き、モデルルームへの来場者であるならば補足説明のために向かうのである。思えば色々な所に行ったものだ。
　マンション営業とはお客さんにとって一生に１度か２度かの大事な買い物のお世話をさせてもらう仕事である。言い直してみると「夢を売る仕事」。そこにはやり甲斐というものが生まれる。
　数多くの人と、ひとつの目標に向かって話をするという経験を与えてくれた仕事であり、また社会人としての自分にとっても、営業力という今後の飛翔のため必要となるものに触れる事が出来る仕事であったかと思う。

３, マンションの選び方

　不動産屋であったと言っても、マンションの営業をしていただけであり、偉そうな事が言えるだけの知識があるわけではないが、営業マンの立場から見たマンションの選び方を私なりにまとめてみた。

◆どの条件がゆずれない事なのかをはっきりさせる◆

　あなたにとって、家を買う際、何が一番重要な点であるのだろうか。
　価格･所在地･環境･駅近く･業者の知名度・マンションのグレード etc…　いろいろな条件があるが、このうち何が譲れない点で なにが妥協してもいい点であるのかをはっきりさせなければならない。これが定まっていなければ、ただのカタログ集めになってしまい、決断力のなさの象徴となるだけである。
　もし譲れない点が克服されていないマンションがあったならば見に行かない方が良い。所在地が譲れない点であるのに、全く希望から外れたマンションを見に行って、グレードが高かったからと申込みをしたとしても、２･３日たって落ち着いてみるとやっぱり所在地が気に入らないという事になりがちである。
　たくさん見に行けば希望でないマンションが良いと思えるかも知れないというのも分かるが、モデルルームで変わった気持ちなど ずっと持ち続けていた気持ちには勝らない。一時で変わる気持ちであるならば、自宅で考えたとしても思いつくであろう。
　たくさん見たから良いものが見つけられ、購入できるというものではない。

◆自分の買える範囲がどこまでなのかを知る◆

　希望は誰にでもあるし、できるだけ高くしたいのは当たり前の事である。
　芦屋の一等地？これならば自分は買えないという事がすぐに分かるが、微妙な所は分かりにくい。分かるのは返済可能額くらいのもので、借入の可能額やその他の制度はなかなか分からないものだ。
　そこでこういった点については、営業マンに聞くのが１番であると考える。もちろん自分で住宅に関する事を勉強をするのが最も良い道であるとは思う。現にそんなお客さんも何人かいて感心もしたが、けっこう間違った知識が多いのも事実であった。
　実際、ローンの計算１つを取ってみたとしても、今は金利の動きが激しいため、毎週のようにローン計算表を書き直す状態であったくらいである。お客さんが正確に計算する事は難しいであろう。
　また、民間のローンは、金融機関ごとに大きく違った特徴があり、なおかつ、どの不動産業者がどこの金融機関と提携しているのかが分からない。もちろん、２つの不動産業者が同じ金融機関と提携していたとしても、条件が違う事が多い。
　自分の買える範囲がどのくらいのものであるのか、また、何か分からない事があるならば遠慮なく営業マンに聞いてみるといい。いろいろと教えてくれる事であろう。

◆妥協を知る◆

　希望は決まっている。借入れ可能額も分かった。では後は希望に合った物件があるかどうかである。
　新聞の折込チラシや、住宅情報などを見たりして探し、そしてモデルルームを見に行ってみる。すると分かるであろう。１００％希望通りの物件というのは、なかなかないものなのだ。
　当たり前である。資金には必ず限界があるためだ。
　よくいらっしゃるのだが、「いろいろ見たい」。結構な事だが、どんなマンションにも一長一短はある。いろいろと見ていくうちに、ここが気に入らん･あそこが気に入らんと、手の届かないマンションを望むようになるだけである。
　これは不動産という物に特に言える事だが、絶対に２度と同じ物は建たない。そのマンションの真横にマンションが建ったとしても、それは別物であり、日照なども変わってくるのである。
　そら、後により良いものが建つ可能性はあるだろう。しかし、マンションは今のパソコンとは違い、待てばより良いものが出るというものではないし、成熟した産業であるため、大きく良くなるというのはほとんどない。ペンティアムとペンティアム�Uほどの差は生まれはしないのである。
　将来により良いものが建つと思うならば、見に行く事自体が無駄な行為であろう。
　家という物は、価格が高い物であるため、よくよく考えて決めなければいけない、というのが一般的な考えである。確かに正しい。安易な考えで、いいかげんに決めてはいけないと思うし、営業マン任せになってしまっているのも良くない事であると思う。しかし、価格が高いからこそ、思いっきりがないと買う事は出来ない。価格が高いがために、考えれば考えるほどマイナスの点ばかりを考えてしまうためである。
　どんなにお金があろうが、購入できる範囲が限られている以上、１００％のマンションというのはありえない。粗探しをすればマイナス点は出てこよう。
　妥協できる範囲で、どこかで思い切らねばならないのである。

　まあ いろいろあろうて。

99/04/17